第35話  庄内竿の特徴   平成15年9月16日


庄内竿は、完全フカセをするに適した竿であった。

庄内竿は江戸時代に庄内の磯で生まれ、地元の磯で黒鯛を釣るために武士によって磨き抜かれた苦竹で作られた延竿である。何故この様な竿が生まれたのか? 何故に胴、元調子の庄内竿が生まれたのか?

元来武士という職業はお城へのお勤めがあったが、家禄という給料を貰っていたので、町人や商人と百姓の様に汗水たらして毎日稼ぐ必要がなかった。そんな訳で殿様から武道のひとつとしての「釣芸」と半ば公認された形で釣を楽しむことが出来たのである。心身の鍛錬が出来、公認の武芸となれば暇を見つけては釣りに行くようになるのは自然の道理であった。さすれば人情として他人より多く釣りたい、大きいのを釣りたいと思うのも無理からぬことである。

手の器用な武士達は、自分好みの竿を自分で作った。偶々庄内には穂先から根っ子まで一本の竿として使える苦竹という竹が自生していた。竿を作れないものは、手の器用な武士に頼み込んで作ってもらった。そんな中、幕末に至り庄内藩士の陶山運平なる人物が、今に残る庄内竿の標準になる竿を完成した。其れは苦竹製の細身で長さ4間弱(7m)の黒鯛を釣るための竿である。町人たちと違い生活の安定している武士たちは、獲物(黒鯛)を取るためには、とことん材料を吟味し手間暇を惜しまずに作られた竿であるから悪い筈はない。事実竿作りを商売にしていた竿師の方々がおり、結構良い竿と云われる物は出回っているものの、残念ながら名竿といわれる物は殆んどない。ここが関東など他の地方の竿との違いである。庄内竿は実践を通して、素人が工夫して完成させた竿である。

黒鯛の性質を考えてみよう。
海面から垂直に垂れた仕掛けには決して食いつかない。しかし、海底に仕掛けを這わせるとハリスに警戒せずに食いつく。また、海底に這わせなくとも黒鯛から見てハリスが斜めになった場合は積極的に食ってくる。

庄内の海は、太平洋と違い潮の干満の差が20~30cmと少ない。潮の払い出しを利用して釣るには多少のハケが必要となる。仕掛けを遠くに飛ばすための機能と弱いデグスで大物を仕留めるという機能を両立しなければならない。より遠くに飛ばすためにバカを2~3尋とり、自然に餌のエビを漂わせるために完全フカセを使用した。そんな仕掛けを飛ばせ、しかも幾らかでも軽い竿とは細身の胴調子、元調子の竿でなければならない。苦竹本来の性質を生かした釣であった。事実オキアミが主流になってからの庄内の完全フカセの釣法は餌が取れやすい、長竿のカーボン竿が元、胴調子の物が殆んどないなどの理由から1尋とバカが短くなり、その分竿が長くしている。

庄内完全フカセとは、仕掛けを目的のポイントに飛ばし、しかも糸フケを起さず振り込む技である。それを可能にしたのは庄内竿であった。黒鯛を釣るために発展した庄内竿ではあるが、その後スズキを釣るための竿、真鯛を釣るための竿、小物を釣るための竿など魚の特徴を捉えた竿も作られた。